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ドキュメンタリー作品をテレビ、映画の枠を超えて広く観客に届ける為に、今、何が可能なのか?
[第4回 座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル]では初めての試みとしてシンポジウムを開催しました。

開催日時:2013年2月10日(日)11時〜12時30分  編集:加瀬澤充  撮影可香谷慧

テレビと映画のタッグ、その可能性

IMG_3139.JPG橋本:テレビのことだけを言ってしまうと、阿武野さんたち東海テレビがやられたのは、中村さんのwowowもそうだと思うんですけど、一回テレビで放送したものを、映画バージョンにするってのは、ものすごい壁があって、音楽一つをとっても、おそらくそれを劇場にするときに差し替えるのか、全部権利をクリアーにするのか。私どもテレビ制作会社としても放送局との契約があるとかで、結構いざとなると実際に難しい。
ただ一つ可能性は、「最初から両方の可能性を考える」ということによって、テレビにとっても映画にとっても新しいドキュメンタリーの形ができ、テレビのお客さんにも映画のお客さんにも双方に見てもらえるとかできるのかな、と思っている。
テレビ側からすると、そこのハードルをちょっと改善するのかな。
それと、逆もあって、映画でつくっていたものをテレビ版にリメイクしていくっていう流れも少しずつできてるんですね。
まだ、それほどは、形は見えづらいんですけども。そういうものが少し混じり合ってくるといいのかな、と。
いくつかビジネス的なライツの問題ですとか、作り方の問題とかあると思うんですけど、お金の問題も大きいですよね。
さっきから300万とか800万とか制作費が出てますけど、テレビのドキュメンタリーは、テレビ局もいろんな違いがありますけど、テレビ局はあるレベルのお金は持っています。テレビ局にとってもそれが映画に展開していくということはメリットにもなると思うので、その辺の仕組みがもう少しドキュメンタリーそのものを豊かにしていくんじゃないかな、金銭的にもですね。
そんな可能性があるとずっと思っているし、私自身、ここを何とかしたいと思うのですが、なかなか難しいんですよね。
どうしたらいいか分からないんですけど。
一つの越境の可能性、ドキュメンタリーの可能性がそこにあるのかなと思っているんです。

IMG_3093.JPG松江:今の話でいうと、「フラッシュバックメモリーズ」がそこできたなと思ってて。
プロデューサーからしたら「何言ってんだ、こいつ!?」なんですよね。
3Dで撮って、5.1chで音処理するって言っても、テレビでは放送できないわけですから。
3Dのチャンネル用に作るっていう案もあったんですよ、テレビでやるっていう前提だったので。
やっぱそこじゃないよねっていうふうになっていって、ただ最初にそういうハードルを作ったから、テレビでやった後に劇場公開するんだという流れ、というかそこに力を入れる。
テレビはテレビで放送してまず目的は果たせるわけじゃないですか。劇場公開ってある種「おまけ」みたいな感じで。
だから、そこは今回、スタッフだったり予算以上の仕事を無理してもらったっていうか。
ただ1つこれは面白いなって思いましたね。だって、どっちで見ても、そこでしか見れないものっていうのがあるので。

橋本:そこの可能性かなと思うんですよね、越境というと。

松江:単純にたぶん再編集しました、とか、そういうレベルではないと思うんですよね。全く違いますよ。

橋本:あらかじめ両方やるって決まってたら、できると思います。
そういう企画があまりないのかなというのと、そういう土壌がそんなには理解されてないのかな、というふうには思います。

松江:今回スペースシャワーさんがほんとにもう…逆に映画のことを知らないからできたんですよね。
プロデューサーの人が映画の経験が全くないので、3Dでやるのがどういうことなのかちょっと知ってたら無理だよっていう話なんですけど、知らなかったので、インターネットで「3D格安」って検索から始めて。ネットで知り合った人をお願いするというやり方だったので。
知らないからできたんですよ、これ。今は笑い話ですけど。実際の制作だったら「ふざけるな」っていう話ですよ。

大澤:どのタイミングで映画にしようと?

松江:たぶんぼくが3Dでやりたいって言った瞬間から。3Dでやるんだったら、これ映画館だよね、って。
最初から尺も決まってたんで、スペースシャワーの深夜の1時間枠。

大澤:予算の枠組みも、基本的には映画にするということ前提で?

松江:違います、映画の前提ではなくて。番組の前提。

大澤:宣伝費を回収するということをスペースシャワーさんとしてはどのように考えてたんですか?

松江:宣伝費が回収できればいい。そのことを言うと、全然越えましたね。
宣伝費で言うと、先ほど木下さんがおっしゃった、分かると思うんですけど、一番低い額ですよ。
試写できなかったんですよ。3Dの試写室がめちゃくちゃ高いんで。

橋本:じゃあ、放送局のスペースシャワーさんにしては、300万で通常の良い番組ができました。あと200万はスペースシャワーさんが出したのかな? 
それに出資して、そこが回収できればいいやぐらいで、それ以上になったら良かったね、みたいな。

松江:みんな知らないからできちゃった。

橋本:大澤さん、今の話を聞いてどうですか?

大澤:宣伝費をかけて、それを最低限回収しなければいけない、さらにそこから利益をあげなければいけないというギャンブルですよね。
ほんと競馬と一緒です。しかも、当たる率もなかなか読めないギャンブルなんで、今の松江さんの話であったりとか、テレビと映画の垣根という部分で、逆にほんとに不思議なのが、テレビ番組とかで制作費をかけて何の回収するあてもないのに、何でこれが放送できるんだろう? 
しかも、視聴率が何%云々というのがあって、1%だったからといって、もらうお金が…。

橋本:制作者には放送の結果での収入は、まあ、ないです。放送局によっては、多少違う仕組みがあると思うんですけど。
逆に言うと、視聴率が悪いからと言ってお金を返せとも言われないんですけども。(笑)

IMG_3172.JPG中村:それで言うと、私の実例もまさに映画にすると思ってなくて、制作費は放送局からもう出てるわけで。
番組は1年間で海外3つ行ってつくってるんですよね。
だから、そこのリスクはとらないんだけど、私は何も知らないからできたところはあって、「映画にしたいです」って言いに行って、宣伝費は大体数百万かかるとかって言われて、「えっ!?」みたいな。
ほんと同じです。そこから逆に資金繰りを考えだした。

橋本:要するにそれはさっきの松江さんと同じで、完成しているわけだから、どうやったら宣伝費を回収できるのかという、その宣伝費に対して、ということですよね?

中村:そうです。プラス、音楽の権利。さっきおっしゃいましたけど、どんな曲を使ったって、ビートルズを使ったって、テレビは放送局が包括でJASRACと契約しているので、好き放題使えるんです。
でも映画にするとき、渋谷慶一郎という音楽家に頼んで、フルで全部やり直してもらう、その制作費と宣伝費をどうするんだ?っていうことで。
私の場合は、取材対象者がアーティストだったので、上映をのばして彼の展覧会と上映を同時期にするということで、宣伝も一緒にリスクを分け合いましょうということで、うまくできたっていう部分もありますよね。

松江:だって映画でビートルズ使うっていうだけでニュースになりますからね。

中村:テレビが映画になるときに、制作費のところでやっぱり出来上がっているっていう部分のメリットはすごく高いとは思います。

橋本:ただ越えなきゃいけないハードルが、音楽の権利だとか、放送局とのライツの問題だとかもろもろ出てくると思うんですよね。

中村:プロダクションとしては、うちも少しは出資してるんですけど、wowowとテレビマンユニオンと少しずつ、ほんとに少しですけど、出資はしてるんですが、権利交渉は非常に大変でした。
元々、製作著作がプロダクションにない場合も今のテレビは多いので、2次利用を半々で分け合えるかどうか、テレビから映画にする場合の権利処理の一番具体的なところでの交渉は大変でしたね。

橋本:「はじまりの記憶」は、回収はできたんですか?

中村:できました、一応。この前ですけれども、会社としてもできました。

橋本:制作費とか、そのことの方が皆さん関心事だと思うんですけど、ドキュメンタリー映画で1万人が大ヒットだと思うと、それに宣伝費と制作費を計算すると、制作費にかけられるお金はほぼ大体見えてくるということですよね?

松江:ぼく今回プロデューサーに言われるのが、テレビのプロデューサーが今回映画をやってみて、いかにお金がなくて、割に合わないか。
一番聞かれたのは、「松江さん、どうやって生活してるんですか?」って。
こんなことを毎年というか、毎日やってて、全然割に合わないじゃないですか、って言われて。
それを聞くたびにちょっと「俺も何をやってるんだろう…」って。
ただ、テレビの人の常識と映画の常識は全然違うので、そこをもっとミックスした方がおもしろいと思う。
だって、制作費1千万って大作ですから、ドキュメンタリーで。

IMG_3153.JPG橋本:1000万はテレビのドキュメンタリーでいうと普通だよね、みたいな。

中村:もしかしたら海外に3つ行って。

松江:3つー!?みたいなカンジですよ。

橋本:3つ行くのは、無理かも。

中村:私の感覚では海外のカメラマンを使って、コーディネーターなしにして、やっと3つ行けるぐらいですね。

松江:同じことやってても日本で宣伝するんだったら、海外合作何か国ロケみたいな。全然違うものになりますよね。

(※ シンポジウムはその後、質疑応答へ)

【シンポジウムを開催しての感想】
座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバルでは、初めての試みとなったシンポジウム。
現在、ドキュメンタリーの世界の最前線で活躍されているみなさんにお集まり頂いてのトークは大変刺激的だった。
「テレビ的」あるいは「映画的」という言葉が作品を評価する時に時折使用されたりするが、その真意が一体何なのかはあまり明確な議論が(特に近年は…)されてこなかったと僕は思っている。
そういった意味で皆さんの話はとても興味深い。
コーディネーターを勤めた橋本が「テレビ」や「映画」の境がよりボーダーレスな状況になってきたと、現在を評しているが、まさにそのボーダレスな状況から、私たちがこれまで見たこともないようなドキュメンタリー作品が生まれるのかもしれない。
そのためにも、もっと多くの作り手や観客が交流できる場所が必要なのだと僕は思う。
そんな場にこの「座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル」がなっていくことを今後も目指していきたい。そのためにこそシンポジウムという場が必要だと、今回開催にあたって実感している。

(座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル実行委員/加瀬澤充)