ゲストセレクション部門 ゲストセレクション部門

ゲストセレクション部門

各方面で活躍中のドキュメンタリーに造詣の深いゲストセレクターたちに、お薦めのドキュメンタリーを自由に選んで頂いて上映します。
ゲストならではの視点で名作ドキュメンタリーの魅力を再発見していきます。

ゲストセレクター

松江哲明推薦文
ドキュメンタリーにストーリーは必要なのだろうか。現実を素材とする以上、ドラマのような展開がある方が奇跡なのだが、『アンヴィル!』を観ると「それはやはり必要だ」と思わされる。なぜなら本作が圧倒的に面白いという事実と同時に、登場人物たちにとって大きな力となっているからだ。そして「夢を諦めない」のではなく「諦めきれなかった」からこそ、そんな物語が撮れてしまったのだろう。この壮大な(ちょっと可笑しい)ドキュメンタリーはスクリーンで浴びる方が効く。
森達也推薦文
初めての映画作品である『A』を公開した翌年に、僕はフジテレビの深夜ドキュメンタリー枠NONFIXで、『放送禁止歌』を発表した。反響は予想以上に大きく、書籍化の話が舞い込み、この翌年に僕は初めての書籍を上梓する。いろんな意味でターニングポイント的な作品だけど、たぶんこの時代に「忖度」という言葉を知る人は少なかったと思う。
日本のメディア環境はとても自由だ。明文化された規制は実のところほとんどない。だからこそ不安になる。自由が怖くなる。このころに「忖度」という言葉の意味を知る人はあまり多くなかったけれど、僕はたっぷり味わった。
カメラの前で歌ってくれた高田渡さんと山平和彦さんはもういない。時おり会いたくなる。会って今のこの国の状況を訴えたくなる。山平さんは吐息をつくだろう。渡さんは「バカにつける薬はないねえ」などと笑うのだろう。放送から二十年以上が過ぎた。でもいまだにこの国は現在進行形だ。
平野啓一郎推薦文
ルイ・ヴィトン時代のマーク・ジェイコブスのめちゃくちゃクリエイティヴな仕事ぶりを堪能できるこのドキュメンタリーは、ずっと僕のお気に入りで、見るとものすごく仕事のやる気が出てくる。ヨーロッパのモードの懐の深さに感じ入りつつ、ひょっとすると、ゼロ年代のこの頃が、モードが良かった時代の最後かもしれないという気も。大変ながら、職場の雰囲気がとにかく良く、憧れを感じる一方、非常に過酷でもあり、この世界の「無理」も垣間見える。色んな意味で必見。
諏訪敦彦推薦文
俳優という存在にずっと惹かれ続けているのかもしれない。新作「ライオンは今夜死ぬ」のジャン=ピエール・レオーのように、人生を虚構のように演じ、虚構を現実として生きるというパラドックス。そこではドキュメンタリーとフィクションという区別は意味を失い、相互に響き合い、侵食して新しいイメージが生まれるのではないか? 演技に取り憑かれた怪優「上山草人」という主題が、私をそのような希望へと駆り立てた。奥田瑛二さんが草人を演じ、しかしそのフィクションを演じる奥田さん自身をカメラは追い、奥田さんは草人の現実の足跡を追いかける。虚構に現実を侵入させ、過去を現在として描くような駆け出しディレクターの自由な演出実験を、地上波という制約の多い場所で実現できたことに今更ながら驚くが、もちろんそれはプロデューサーたちの気概と意志に支えられていた。柳愛里という俳優との出会いが、「2/デュオ」という最初の長編映画へとつながっていったという意味でも、ここが私自身の表現の始まりでもあった。
是枝裕和推薦文
草創期から活躍されて来たテレビ第一世代の訃報が近年相次いでいる。本来なら、テレビ自身が彼らの功績をきちんと再評価しなくてはいけないはずなのに、なかなか実現していないのが現状ではなかろうか。永六輔さんもその一人。彼が、テレビをどのように捉え、面白がり、そしてテレビから離れていったのか?そのあたりを自分史に絡めて語れるのは今野勉さん以外にはいないだろう。今回是枝は質問者に徹する。つもりである。
井浦新推薦文
日曜美術館の司会を始めて5年目。年に一度、自分の関心の高い題材をテーマに旅をしている。今回の作品では、幼い頃から身近にあり心魅かれてきた「異形」を探す旅にでた。天狗や鬼など、日本各地にひっそりと佇む異形を巡る旅は、自分の心の内側を開いていくドキュメンタリーだったように思う。旅の間、ディレクターの長井さんとずっと謎解きをしているように感じていた。事前に用意した言葉ではなく、その瞬間に生まれてきた言葉で向き合った「異形」たち。結果、従来の美術番組の枠をはみ出し、美術ドキュメンタリーとも言えるような新しい形になったこの作品について、長井さんと共にもう一度考えてみたい。